交通事故で後遺障害が残ったり、被害者が死亡したりした場合、将来得られたはずの収入が得られなくなる「逸失利益」が、損害賠償請求の中でも特に金額が大きくなりやすい項目です。計算方法を誤ると、本来受け取れるはずの賠償額を大きく下回ってしまう可能性があります。本記事では、逸失利益の基本的な考え方から、具体的な計算式、近年の裁判例の傾向まで、交通事故を多く扱う弁護士の視点で解説します。
逸失利益とは
逸失利益とは、交通事故がなければ将来得られたはずであるのに、後遺障害や死亡によって得られなくなった収入のことをいいます。民法709条に基づく損害賠償請求の一類型として位置付けられ、大きく分けて「後遺障害逸失利益」と「死亡逸失利益」の2種類があります。
いずれも将来の収入という性質上、実際にいくら減ったかを正確に証明することは困難です。そのため、裁判実務では一定の計算式に基づいて金額を算定する方法が確立されています。
後遺障害逸失利益の計算式
後遺障害逸失利益は、次の計算式で算定されるのが一般的です。
基礎収入額 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
基礎収入額は、原則として事故前の現実の収入を基礎としますが、給与所得者であれば事故前の実収入額、家事従事者であれば賃金センサスの平均賃金を用いるなど、職業や立場によって算定方法が異なります。
労働能力喪失率の考え方
労働能力喪失率は、後遺障害等級に応じて自動車損害賠償保障法施行令の別表(労働能力喪失率表)に目安が示されており、たとえば後遺障害等級14級であれば5%、12級であれば14%とされています。もっとも、これはあくまで目安であり、実際の職業内容や後遺障害が収入にどの程度影響しているかによって、裁判では増減が認められることもあります。
保険会社との交渉では、この喪失率が争点になることが多く、後遺障害の内容や被害者の職業実態を具体的に主張立証することが重要になります。
労働能力喪失期間の考え方(むちうちの場合の制限傾向)
労働能力喪失期間は、原則として症状固定時から67歳までとされますが、むちうち(頚椎捻挫等)のように他覚的所見に乏しい後遺障害(いわゆる14級9号や12級13号)については、将来にわたって労働能力の低下が継続するとは限らないとして、喪失期間を5年程度に制限する裁判例が少なくありません。
たとえば、大阪地判令和2年3月19日は、むちうち症状について他覚的所見が乏しいことを理由に労働能力喪失期間を一定期間に制限する判断を示しており、京都地判平成31年1月11日も同様の傾向を示しています。もっとも、事案ごとに症状の内容や推移は異なるため、個別の医証に基づいた主張が必要です。
ライプニッツ係数とは(2020年民法改正の影響)
逸失利益は将来にわたって発生する損害を、事故時に一時金として受け取る形になるため、本来受け取るべき時期より早く受け取る分の中間利息を控除する必要があります。この中間利息控除に用いられる係数が「ライプニッツ係数」です。
2020年(令和2年)4月1日施行の民法改正により、法定利率が年5%から年3%に引き下げられ(民法404条2項)、将来的には3年ごとに見直される変動制が導入されました(民法417条の2第1項)。これに伴い、2020年4月1日以降に発生した事故については、改正後の法定利率に基づくライプニッツ係数を用いて逸失利益を算定することになります。改正前の事故と比較すると、同じ労働能力喪失期間でも係数が大きくなるため、逸失利益の金額自体が増加する傾向にあります。
死亡逸失利益の計算式と生活費控除率
被害者が死亡した場合の逸失利益は、次の計算式で算定されます。
基礎収入額 ×(1-生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
死亡した場合は将来の生活費がかからなくなるため、その分を「生活費控除率」として差し引きます。生活費控除率は、一家の支柱かどうか、扶養家族の人数、性別等によって目安が異なり、実務上は30%~50%程度の範囲で認定されることが多い項目です。
また、就労可能年数の終期について、最高裁平成8年4月25日第一小法廷判決は、被害者が死亡したことによって将来の就労可能期間が短縮されるものではないとの判断を示しており、死亡逸失利益の算定実務における重要な先例となっています。

基礎収入をめぐる争い
基礎収入の認定についても、保険会社との間で争いになることがあります。事故前に現実収入の減少がなかった場合でも、最高裁昭和56年12月22日第三小法廷判決は、労働能力の喪失により将来収入の減少が見込まれる場合には、現実の収入減少がなくても逸失利益を認める余地があることを示しています。現在の収入だけで逸失利益が否定されるとは限らない点に注意が必要です。
まとめ
逸失利益は、交通事故の損害賠償の中でも金額が大きくなりやすく、基礎収入・労働能力喪失率・労働能力喪失期間のいずれについても保険会社との間で争いになりやすい項目です。特にむちうちなど他覚的所見に乏しい後遺障害では、喪失期間を争われる傾向が強く、適切な主張立証がなければ賠償額が低く抑えられてしまうおそれがあります。
当事務所の交通事故の解決実績は解決事例一覧でもご紹介しています。逸失利益の金額に納得がいかない場合や、保険会社の提示額が妥当か不安な場合は、早めに交通事故を扱う弁護士にご相談ください。


