交通事故でケガを負い、仕事を休まざるを得なくなった場合、その間の収入減少分は「休業損害」として加害者側に請求することができます。しかし、休業損害は職業や算定基準によって金額が大きく変わるため、正しい知識がないまま示談を進めると、本来受け取れるはずの金額より少ない賠償で終わってしまうことも少なくありません。この記事では、休業損害の計算方法や必要書類、請求時の注意点について、交通事故を専門とする弁護士が分かりやすく解説します。
休業損害とは
休業損害とは、交通事故によるケガの治療や療養のために仕事を休んだことで生じた収入の減少分を補償する損害賠償項目です。会社員やアルバイトはもちろん、自営業者や専業主婦(主夫)であっても、一定の条件を満たせば休業損害を請求できます。
休業損害は「治療のために現実に休業した期間」を対象とするため、完治または症状固定の診断が出るまでの間、通院や自宅療養で仕事を休んだ日数に応じて計算されます。
休業損害の基本的な計算方法
休業損害の基本的な計算式は、以下のとおりです。
休業損害額 = 基礎収入(1日あたりの収入額) × 休業日数
「基礎収入」の算定方法は職業によって異なるため、次の項目で職業別に詳しく見ていきます。
【職業別】休業損害の計算方法
会社員・アルバイトなどの給与所得者
給与所得者の場合、事故前3か月分の給与の合計額を、その期間の稼働日数で割って1日あたりの基礎収入を算出します。
例:事故前3か月間の給与総額が75万円、稼働日数が60日だった場合
75万円 ÷ 60日 = 1日あたり1万2,500円
ボーナス(賞与)が事故によって減額された場合は、その減額分も休業損害として請求できる場合があります。
自営業者・個人事業主
自営業者や個人事業主は、事故前年の確定申告所得に、事業を維持するために必要な固定経費(家賃・従業員の給与など)を加算し、事業への寄与度を考慮したうえで365日で割って基礎収入を算出するのが一般的です。
確定申告をしていない、あるいは所得を実際より少なく申告していたケースでは、休業損害の立証に工夫が必要になるため、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
専業主婦・兼業主婦(主夫)
専業主婦(主夫)は収入がないため休業損害が認められないと誤解されがちですが、家事労働にも経済的価値があるとされ、休業損害の請求が可能です。基礎収入には、賃金センサス(厚生労働省の賃金構造基本統計調査)における女性労働者の全年齢平均賃金を用いるのが実務上の一般的な取り扱いで、これを365日で割った金額に休業日数を掛けて算出します。
パートなどで収入を得ている兼業主婦の場合は、実収入額と賃金センサスによる金額のいずれか高い方を基礎収入とするのが原則です。
無職・失業者
無職や失業中の方は、原則として休業損害は認められません。ただし、事故当時に就職の内定が出ていた、あるいは就労の蓋然性(近いうちに働き始める客観的な見込み)が認められる場合には、賃金センサスや内定先の推定収入などをもとに休業損害が認められることがあります。
算定基準による違い(自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準)
休業損害には、次の3つの算定基準があり、どの基準を用いるかによって金額が大きく変わります。
- 自賠責基準:1日あたり原則6,100円。実際の収入がこれを上回ることを資料で証明できれば、1日あたり最大1万9,000円まで認められます。加害者側から最低限支払われる基準です。
- 任意保険基準:各保険会社が独自に定める基準で、公表されていませんが、実務上は自賠責基準に近い金額が提示されることが多いです。
- 弁護士基準(裁判基準):過去の裁判例の積み重ねに基づく基準で、実際の収入に応じて計算されるため、多くの場合3つの基準の中で最も高額になります。
保険会社から最初に提示される金額は、任意保険基準や自賠責基準に基づいていることがほとんどです。弁護士基準で算定し直すことで、休業損害の金額が大きく増額されるケースは珍しくありません。
休業損害の請求に必要な書類
休業損害を請求する際は、職業に応じて次のような書類が必要になります。
- 給与所得者:休業損害証明書(勤務先に作成してもらう書類)、源泉徴収票、給与明細
- 自営業者・個人事業主:確定申告書の控え、帳簿など収入を証明する資料
- 専業主婦(主夫):原則として証明書類は不要ですが、兼業の場合は休業損害証明書が必要です
休業損害を請求するうえでの注意点
- 症状固定(これ以上治療を続けても改善が見込めない状態)後の期間は、休業損害ではなく後遺障害逸失利益として扱われるため、請求の区分に注意が必要です。
- 通院日数だけでなく、実際に仕事を休んだ日数(有給休暇を使った日も含む)を正確に記録・証明することが重要です。
- 保険会社から提示される休業損害の金額は、必ずしも適正な金額とは限りません。提示額をそのまま受け入れる前に、弁護士基準での再計算を検討しましょう。
弁護士に依頼するメリット
休業損害は、基礎収入の算定方法や資料の集め方一つで金額が大きく変わる損害項目です。弁護士に依頼することで、弁護士基準に基づいた適正な金額での請求が可能になり、保険会社との示談交渉も一任できます。
「弁護士費用が心配で依頼をためらっている」という方は、ご自身の任意保険に弁護士費用特約が付帯していないかご確認ください。弁護士費用特約を利用すれば、多くの場合ご自身の自己負担なく弁護士に依頼することができます。弁護士費用特約の仕組みや使い方については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
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まとめ
休業損害は、職業や算定基準によって金額が大きく異なる損害項目です。会社員だけでなく、自営業者や専業主婦(主夫)であっても請求できる可能性があるため、諦めずにまずは専門家に相談することが大切です。適正な休業損害を受け取るためにも、示談を成立させる前に、交通事故の解決実績が豊富な弁護士へご相談ください。


